身元保証人問題

自立したいという気持ちがあって、仕事が決まっても、職場から身元保証人が求められ、なってもらえる家族がおらず内定を辞退しなければならないということが、身寄りのない方に多く発生しています。

児童養護施設等の出身者は「身元保証人確保対策事業」によって、この問題が解決できます。しかし施設を利用したことがない方もたくさんいます。

たとえば困難を抱えて生活困窮者一時生活支援事業(シェルター)の利用者は、「身元保証人確保対策事業」の対象にはなりません。

わたしたちは身元保証人確保対策事業の対象の拡充等による対策を求めています。

対馬 怜さん

シェルター利用経験者

生い立ち

幼少期に両親が離婚し、母子家庭で育ちました。母からは首を絞めたり、髪の毛を持って引き摺り回されたりしていました。怪我をしたり病気になっても病院に連れて行ってくれないのは当たり前でした。でも暴力を振るったあと謝ったり、辛そうにしている母の表情を見て「母と妹を支えよう」と私になりに考えて行動していました。
中学生の頃、転がり込んできた男性と母が別れたあとに、母は支離滅裂な言動が増えていきました。母は職場で倒れ、働くことが難しくなったため、世帯で生活保護を受給することになりました。

絶たれる自立の道

家を出るために、国家資格がとれるが学校へ進学して自立できる経済力を身につけようと思いました。しかし、母の妨害によりかないませんでした。保護者印の必要な志望動機の下書きや、奨学金のパンフレットは破り捨てられました。受験日には死ねと叫ばれました。学校の先生や友人の助けがあって、医療系の国家資格がとれる大学へ合格できました。しかし最後まで母から奨学金の許可が取れませんでした。私が保護を外れて保護費が減ることも母は許せませんでした。私は進学を諦めました。

生活保護世帯のこどもは、保護をはずれて奨学金等で学費・生活費を工面する必要があります。くわしくはvol.1「まなびたい」をご覧ください。

成人と同時にシェルターへ

進学の道が断たれ、経済力を身につけて家を出る希望がなくなりました。2022年、成人の年齢が18歳に引き下げられると知り、その時を見計らって家を出ようと決心しました。

アパートを契約するにも、未成年者は単独で契約できず、親権者同意が必ず必要です。虐待を受ける子どもたちにとって、大きな障壁となります。

地域の子ども支援団体などに相談し、あじーるのシェルターに繋がりました。母の手元にある私の身分証明書、通帳、印鑑を取り戻そうと弁護士を通じて交渉をしていましたが、話が通じず再発行しました。シェルターから自立するまでの間は、生活保護を受給しました。保護を受けるにも電話番号や住所が必要になり、手続きのための移動に時間もお金もかかります。シェルターに入っていなかったら、私は就職どころか住む場所に困っていたのだろうとおもいます。

就職活動でも、家族の壁

保護受給中、市役所の就労支援員の方と就活対策をしました。いまの時代は家族構成を直接聞くことはできないそうです。そのため「ご両親の年齢は何歳ですか、長期休みは帰省していますか」など、で遠回しに探りを入れるとのことでした。両親の年齢を暗記したり、実家とは連絡をとりあっているという回答を作って面接対策をしました。実際、面接でそういった質問は多かったです。若く一人暮らしをして就職活動をしている私は、会社にとっては「家族が支えているのかどうか」が採用の決め手になっていたのだと思います。

就活の結果、事務職の内定を得られましたが、会社から身元保証人を求められました。シェルターにいたときから、身元保証人が見つからず内定取消になってしまったひとの話を聞いていました。幸い私は友人経由でなってくれる方が見つかりました。一方で「家族が無理でも普通は親戚に頼むものでおかしいんじゃないか」と厳しい言葉を受ける機会もありました。私にも、その発言をした人のように、成人していて働いている頼れる血縁者が当たり前に身近にいる環境で育っていたらよかったなと思いました。

生活保護の就労指導の現実

市役所の就労支援員の方との面談では「特に行きたい会社の求人でなくても、週に何社履歴書を送りましょう」と指導をされました。また「内定が出たら第一希望の会社からの内定連絡が来る前に就職しましょう」「ブラック企業だったとしても生活保護を抜けて三か月は様子見の期間だから就職しよう」と言われました。生活保護から就職を目指す人の味方ではなく、希望は聞きつつ最終的にはどこでも良いから就職させるという一点に特化しているんだなと感じました。

現在の心境

就職することはできましたが、いまでも家族に関する話題など、どうしても自分のことを周りに気軽に話すことができないです。頼ることができない、自分ですべて解決するしかないというのが現状です。でも実家で暮らしていた時よりも、精神的にも肉体的にもずっと楽です。

社会に対する希望

日本国憲法には職業選択の自由があります。身元保証人という制度は、会社に対して損失を与えた際に金銭面で保証してくれる安定して働いている人を見つけて頼まなければいけません。血縁者に頼ることが出来ない人にとって、本人が努力したところで解決することが非常に難しい問題です。2020年の民法改正により、極度額の上限記載が義務づけられるなど条件は緩くなっているようです。不当な内定取り消しを減らす為にも、身元保証人が本当に必要なのか、もっと議論がなされるとよいと思います。

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